kaihiroshi’s blog

外のサイトでかいひろしで語っています。

風にのったレシピ

(第一話 再開一)

 お土産屋の横を通り、駅の改札を急いで通り抜けると下に降りてゆくエスカレーターを見渡した。今日は、たった一人の弟のひかりと会うため、新幹線のホームに降りてきたのだ。

 それから新幹線が、仙台の駅に到着すると、女はその車両から降りてくる乗客をくまなく見渡していた。やがて、彼女の弟は、新幹線の車両から、乗客が減るのを待つようにゆっくりと降りてくる。そして、懐かしそうに姉に声をかけた。
「やあ、姉ちゃん、久しぶりだね!」
「元気だった!」
 弟のひかりが、その女の故郷の札幌から、三年ぶりに会いにきた。
「久しぶりね、ひかり」

 その女は弟の格好をみて、一言つぶやいた。

「しかし、どん臭くない!」

 姉は、弟のおしゃれなどに興味のない身なりを見て、いかにもその弟のセンスの無さを指摘した。

 弟の格好は、汚れが目立つような少しよれたジーパンに、Tシャツを着こんで来た。その格好は、田舎から出てきた青年そのものであったのである。
「いいじゃねえかよ、服装なんか気にしないし!」

「それに暑いし…」


「まったく」

 一呼吸おいて姉は意味深につぶやいた。

 お洒落に興味がない弟に対して、この物語の主人公である「望月あやめ」は、灰色の生地にエスニック的な刺繍が施されたエンブロイダリーチュニックを着て、脚をきれいに見せる白いパンツを履き、腰にはきれいなベルトを巻いていた。

 肩には仕事柄か、おしゃれな手提げバックが下げられていた。
「姉ちゃん、いつ見てもセンスいいし、お洒落だよね!」
「まあな!」

「お洒落には、人一倍、仕事柄もあり気を使っているからね」


 そんな彼女は数年前、調理師学校を主席で卒業してから一流のフレンチに就職し、それから何年も、実家である札幌には帰省していないのが実際のことであった。

その想いが、頭を過ぎったのか、ひかりに向かってその口を開いた。
「ねえ、お父さんは元気なの?」
 あやめは、父の近況をひかりに尋ねている。主人公であるあやめは、フレンチの仕事に夢中になり、その修業で腕を上げ、あやめ自身の腕を試すために仙台に縁があり、この街にやってきていた。

そんななか、父が母親と離婚してから、生活も荒れているので気になっていたのは無理もないと言える。


「親父か、この頃は元気ないな」
 姉の父の近況を尋ねる言葉に、ひかりが意味ありげに空を見上げながら呟いた。

ひかりの表情はなんとなく口元が揺れていた。その状況をあやめは読み取り、言い放った。


「あんた、何か隠してない!」
 弟の仕草には、口元の動きに特徴があるので、なおかつ空を見上げている時は、隠し事があるのを、あやめは姉としてその様子を見逃すことはなかった。
「気になるんだけどさ、病院に行っているみたいだよ」
「どこか、悪いのかは知らないよ!」
「親父、黙りこくって言わねえしよ!」
 その話を聞いた、あやめはひかりの手を引いて、急いで仙台の駅のホームを飛び出して行き、お土産屋の前を猛スピードで歩きだした。

その足取りは、かなり急いでいる様子であった。
「痛いよ。姉貴!」

我に返るとあやめはひかりの手を離した。
「とりあえず、駅から出て、おいしい御飯(ランチ)でも食べようか!」
 あやめは、今日は仕事の休みの日である。久しぶりの再会は、仙台のお昼時間と重なっていて、人ごみの中に二人は消えてゆく。

つづく。